ロサンゼルス郡人口の35%は外国生まれなので、労働者だけでなく、雇用主も移民ということが珍しくない。
そのため、移民労働者と移民雇用主の間で、問題が起こることもある。
今年3月、高級住宅街ビバリーヒルズにある日本人経営の高級すし店が、メキシコ人元従業員に適正な賃金を支払っていなかったことが明らかになった。
メキシコ人元従業員の訴えを受けて、状況を調査したカリフォルニア州労働基準監督署が、高級すし店に対して、労働法違反の罰金約6万6千 ドル(約660万円)を支払うように命じた。そのうち約3万8600ドル(約386万円)が、そのメキシコ人従業員を含む従業員3人に対する未払い賃金という。
この高級すし店で客が支払う平均的な金額は、来客1組につき約1,100ドル(約11万円)。全国的にも有名な高級すし店ということもあって、ロサンゼルス・タイムズが今年3月、ニューヨーク・タイムズが今月、それぞれ報じた。7月20日現在、高級すし店側は、罰金命令を不服として、未払い賃金の支払いに応じていないという。
◇
実は、この問題については報道される前から知っていた。
昨年11月、ロサンゼルス・コリアタウンに本拠地を置く移民労働者支援団体で、メキシコ人元従業員を応援する集会が開かれた。
僕は大学院の授業や友人の紹介を通して、この支援団体を知っており、たまたま応援集会を見学する機会を得た。
団体事務所の集会部屋には、移民労働者を含む団体メンバーに加え、労働組合や他の市民団体の代表者ら計約30人が集まった。
ラティーノ、アジア系(韓国、中国、日本、タイ系など)、白人など集まった人たちの人種・エスニシティも様々だ。
元従業員は緊張した面持ちながら、集まった人たちを前に、自分の経験をスペイン語で話し始めた。この支援団体のメンバーが、英語と韓国語に通訳した。
彼は2006年から高級すし店で働き始め、皿洗いから調理まで担当してきた。
仕事は、ときに午後1時から翌日午前1時まで約12時間続いたが、休憩は許されず、残業代もなかった。
さらに、2012年春、風邪をこじらせ、日本人経営者に早退したいと仕事中に願い出たところ、それを理由に解雇された。
そこで、この支援団体を訪ね、助けを求めたという。
元従業員は集会前、緊張して何度も話す内容を練習していたが、多くの支援者に囲まれて、無事に話し終えるとほっとした表情を見せた。
◇
この支援団体は、これまでは主にコリアタウン内の韓国系やメキシコ系の飲食店などにおける労働問題に対して抗議活動を続けてきた。今回のように、高級住宅街の高級料理店に対する抗議活動は珍しいという。
彼らは、カリフォルニア州の労働基準監督署(The Division of Labor Standards Enforcement)に問題を訴えるだけでなく、問題のあった飲食店に対して抗議デモを行うなどして、移民労働者をサポートする。
今回の問題を報じたロサンゼルス・タイムズの記事によると、ロサンゼルスはアメリカで賃金未払い率が最も高い都市で、年間に推定14億ドル(約1,400億円)が労働者に支払われていないらしい。
滞在資格や言語の問題から、移民労働者が未払い賃金の被害にあうことも少なくない。
新聞社の取材に高級すし店側が答えていないため、両者の意見を比較することができないが、少なくとも支援団体が存在しているということは、問題が起きた場合に移民労働者がどこかに助けを求められるという点で重要だ。
公的機関の罰金命令にも、新聞社の取材にも応じないという高級すし店側の姿勢は、なかなか理解しがたいが、今後も問題の推移を注視していきたい。
・ロサンゼルス・タイムズの記事は、こちら。
・ニューヨーク・タイムズの記事は、こちら。
・この高級すし店の料理について詳しく書いた個人ブログの記事は、こちら。
※追記
その後、店側が罰金の支払いに合意した。詳しくは、こちら。
0 件のコメント:
コメントを投稿