2012年6月27日水曜日

「アメリカ人とは」、1150万人の問いかけ

2012625日号のタイム誌の表紙には、暗がりの中、カメラ目線でたたずむ30人ほどの若者たちが写っている。
WE ARE AMERICANS*」というコピーの下、「*Just not legally」と添えられている。

彼らの多くは、幼いころにビザなどの合法的書類がないまま、家族とともにアメリカに入国し、そのまま「アメリカ人」として育った若者たちだ。ただ、彼らが「*Just not legally」というように、法律的には「アメリカ人」ではない。
そんな彼らはしばしば「illegal aliens(不法移民)」と呼ばれてきた。
しかし、この呼称は犯罪性を示唆するネガティブな響きが強いため、現在は「undocumented immigrants(便宜的訳語:非合法移民)」と呼ばれることも一般的になってきた。

アメリカでは現在、このような非合法移民が約1150万人いるという。
すでに社会の一部であり、彼らの労働力がないと成り立たない産業も少なくない。そして、もちろん、その中には多くの若者も含まれている。「不法移民」である限り、見ず知らずの「母国」へ強制送還される心配は尽きないし、教育や就職で不利益を被ることも多い。

「アメリカ国籍じゃないなら、アメリカ人じゃないでしょ」と思う人もいるだろう。けど、アメリカで育ち、アメリカの言葉を話し、アメリカにしか友達がいない人たちを外国人として扱うこともまた不自然だ。この記事は、非合法移民の若者たちが写真付で「カミングアウト」することで、「アメリカ人とは」と読者に問いかけている。

この特集記事が掲載された背景には、一人のジャーナリストの挑戦があった。
ホゼ・アントニオ・バルガス、31歳。ワシントンポストなどで活躍し、アメリカ・ジャーナリズムにおける最高の賞であるピューリッツァー賞も受賞した優秀な記者だ。
実は、そんな彼も非合法移民の一人。12歳のとき、フィリピンからカリフォルニア州に渡り、祖父母のもとで育つ。16歳で運転免許証を申請したとき、それまで本物と思っていた自分の永住権証明書(グリーンカード)が偽物だと、免許事務所の職員に指摘され、はじめて自分の置かれた状況が分かったという。

「アメリカ人」の意味について語るホゼ・アントニオ・バルガス(写真は、彼が立ち上げた団体「Define American」のサイトhttp://www.defineamerican.com/より)

同じ状況におかれた人々がカミングアウトしていくことで、「不法」というネガティブで偏ったイメージが壊れていく。その結果、社会は彼らの状況を理解しはじめ、むしろ彼らを同じ国に生きる仲間として守るようにさえなる。ホセの挑戦には、そのような信念が込められている。

この特集記事を読んで最も印象的だったのが、ホゼのジャーナリストとしての切り口の鋭さだ。「結局、アメリカという国は私たちをどうしたいんだ」という本質的な問題に、体当たり的でありながらもスマートな取材を通して迫っていくところは、ここで細かく書いては味気ないので、ぜひ一読していただきたい。

もちろん、「〇〇人とは」という問いかけは、日本を含め、あらゆる国や地域に住む人々への問いかけでもある。

2012年6月18日月曜日

ロサンゼルス暴動を学ぶ

ロドニー・キングさんが17日、カリフォルニア州リアルト市内の自宅プールでなくなったという。年齢は47歳。CNNの速報では、事件性は低いらしい。

http://edition.cnn.com/2012/06/17/us/obit-rodney-king/index.html?hpt=hp_t2

1991年、ロサンゼルス市の白人警察官がアフリカ系(黒人)のキングさんを暴行し、その様子を目撃した市民の録画ビデオが公開された。翌年、暴行に関与した警察官全員が無罪となったため、アフリカ系を中心に不満が爆発し、米国でももっとも大きな市民暴動の一つ、いわゆるロサンゼルス暴動につながった。

僕は2005年、カリフォルニア州の大学に留学中、たまたまロサンゼルス暴動が起きた背景と再発防止について学ぶ授業をとっていた。

この暴動は、さまざまな人種・エスニック集団の低所得者層が暮らすダウンタウン周辺がおもな現場だった。そのため、白人とアフリカ系の対立にとどまるものではなく、暴動の被害を受けた商店主には韓国人移民が多く、暴動に加わった住民にはラティーノ(中南米系)も多かった。

授業では、暴動の激しかった地域に見学に行った。暴動後は、アフリカ系と韓国系の人々の相互理解を深めるため、韓国系商店主がアフリカ系住民を雇うなどの取り組みが進んだらしく、そうした店の様子も見ることができた。
先生の話で印象的だったのは、そうした低所得者層地域のテコ入れの象徴として、スターバックスの店舗も設けられたということだった。グーグルマップで確認すると、まだ営業しているようだ。

授業のレポートのために、僕は当時リトルトーキョーで暮らしていた日本人にインタビューし、日系新聞「羅府新報(Rafu Shimpo)」の関連記事を調べた。ある観光案内所のスタッフは「観光面では『9.11』より影響は大きかった」と話していた。

キングさんが亡くなったことで、今年はこの事件をあらためて振り返る報道や研究も出てくるだろう。そのような年に僕自身が再びロサンゼルスに向かうこともなにかの因果だろうかと思いつつ、キングさんの冥福を祈りたい。

2012年6月4日月曜日

延びる地下鉄、変わる人の動き

2012年、ロサンゼルス留学者にもれなく744億円相当のプレゼント、と言っては大げさだけど、そう思ってもいいようなタイミングだ。
今年4月、ロサンゼルス地下鉄LA Metro Railの新路線が開通した。
エキスポ線(Expo Line)と名付けられた新路線はダウンタウンから約14キロ西南西方向に延び、地下鉄網としては第6路線目となる。
2006年に建設が始まった同路線は、総工費9億3千億ドル(1ドル80円で744億円相当)をかけて、ちょうど今年の春に開通した。

カリフォルニア州は車社会なので車が必要だが、それなしでも移動できる範囲が広がるにこしたことはない。
また、ガソリン価格が高騰し続けているロサンゼルスの住民にとっても、リーズナブルでエコな代替交通手段として活用されるだろう。

ニュースサイト「The Huffington Post」は、「南カリフォルニアでは、人々がどうやって移動し、どこにどのような建物を建てるか考えるとき、自動車なしには何も決められないというイメージがあるが、路線の拡大は、そうしたイメージに終わりを告げるだろう」と期待を込めて報じている。
この言葉を借りれば、路線の拡大は「外国人住民(移民)がどうやって移動し、どこに住み、どこで働くか」ということにも何かしらの影響を与える。少なくとも、現在、家さがし中の僕にはすでに影響を与えている。

夏目漱石が驚いたロンドンの地下鉄は1863年に開通。また、東京の地下鉄は1927年に開通した。それらに比べると、ロサンゼルスの地下鉄が最初に開通したのは1990年とそれほど昔ではない。

新たな路線の開通がロサンゼルスの移民社会にどのような影響を与えるのか。そんなことも頭の隅にいれながら、便利に活用したいと思う。

ちなみに、この路線、今年4月に開通したのは第1期工事。第2期はさらに西側に路線を延ばし、2015年までにアンジェリーノ(Angeleno=ロスっ子)の憩いの海辺サンタモニカまでつながるという。

地上部分が多いロサンゼルスの地下鉄(写真はhttp://www.buildexpo.org/から)