2012年9月15日土曜日

移民支援の英語教室②、誰でも受講できる

カリフォルニア州の一部の地域では、格安の授業料で英語教室を受講することができる。
100年以上前から移民を受け入れてきた国の伝統ともいえるだろうか。
どこで英語教室を受けることができるか、ネットを使えば簡単に見つけることができる。

妻が通い始めた成人向けコミュニティスクールは「3ヶ月、週4回、一回3時間」で、わずか20ドル(1600円相当)と前回の記事で報告したところだが、もっと内容が充実していたらしい。
週4回の授業は月~木曜日にあるけど、なんと希望すれば金曜日も会話練習(3時間)を受講できるらしい。
ということで、妻はそれにも通い始めた。

最初の会話練習の参加者は、メキシコ、イラン、ブラジル、エルサルバドル、インドネシア、フィリピン、ブルガリア、キューバ、エチオピア、日本、韓国、中国など出身の35人くらいが参加。会話練習の定員は40人で、2回以上欠席すると除籍になるらしい。
というのも、10人以上がウェイトリストで受講できるのを待っているからだ。

授業が始まると、まずは自己紹介。その後、それぞれの国の名前の付け方などを紹介しあった。
「わたしの国では、政府が名前リストを持っていてそこから選びます」
「おじいちゃんが最初の孫の名前を付けます」
「生まれた日の暦にちなんだ名前を付ける人が多いです」
「占星術で決めます」というわけで、決め方はそれぞれの国でいろいろ。
妻としては「親の名前にちなんでつけたり、名前の本を買ったり・・・親が自由につけたり」と説明した。まあ、日本の場合、なんでもいいというわけだ。

その後、25分ほどの英語学習用ドラマを見て、内容に対する感想をそれぞれ英語で表現した。
妻いわく「けっこう難しいよ。そもそも英語を聞き取れないと意見いえないし、わかっても4割くらい。直接の会話だとある程度わかるのに、テレビになるとなんで難しいんだろう」とのこと。

月~木曜日の英語教室の先生は、外国人に英語を教えて17年と経験豊富。金曜日の会話練習の先生も教えなれてて感じがいい。

この英語教室の受講するには、書類審査も面接審査もない。なので、日本から観光ビザで渡米しても申し込んでも大丈夫らしい。
教室の要綱には「人種、肌の色、エスニック集団、国籍、祖先、宗教、年齢、結婚・未婚、妊娠、身体・精神的障害、健康状態、退役軍人、ジェンダー(社会的性差)、遺伝情報、性別、性的志向、そして、このような様々な特徴の感じ方、にかかわらず、だれでも受講できます」と書かれてある。この内容は1964年の市民権法と通じるので、どのように関係しているのか知りたいところだ。

とくに興味を引いたのは「このような様々な特徴の感じ方」という部分。つまり、人種にしても、宗教にしても、それを何ととらえるかは個人差があるので、そうしたそれぞれの「とらえ方」の違いもすべて受け入れるということ。「法的な立場」という項目は見当たらなかったけど、クラス分けの面接で「なんで英語を学びたいの」以外はほぼ一切何も聞かれないということからすると、非合法移民でも受講することができそうだ。

というわけで少し話を戻すが、すでに日本で仕事をしているなど、ある程度、経済的に安定した状態で、しばらく休職して実践的な英語力を高めたい人には、とてもいい選択肢になるだろう。

そして、なによりも『周りに日本語を話す人がいない・少ない』という、この教室の環境は、実践的な英語力を伸ばすうえで決定的な要素といえるだろう。

2012年9月12日水曜日

移民支援の英語教室①、出身も動機もいろいろ

妻「メキシコの人は5人家族なんだって。子どもが3人いて、いちばん下の子は生後4週間なんだって」
僕「仕事は何してんの」
妻「いまは仕事がないみたい」
僕「どこに住んでんの」
妻「近所のアパート。同郷のメキシコ人が多いって。スペイン語が話せる人が多くていいですね、って言ったら、『もっと英語が話せる環境のほうがいいよ』って」

妻が近所の成人向けカルチャースクールで、外国人を対象にした英語教室に通いだした。
そこで出会ったメキシコ人の35歳くらいの男性の話をしてくれた。

妻が受けている中級コースは、12月中旬までの3ヶ月間、週4日、一日3時間で授業料はわずか20ドルだ。移民の国アメリカでは、地域に根付いた移民支援サービスが整っていると聞いてはいたが、たしかにその通りだった。
このコースでは、30人くらいの外国人が参加しているらしい。
メキシコ、ホンジュラス、エチオピア、ドイツ、中国、インドネシアなど、いろいろな国の人々と出会う機会を得て、妻も楽しんでいるようだ。

英語教室のテキストは36ドル
彼らが英語を学んでいる理由もいろいろ。インドネシアの中年の女性は、娘さんが働いているアメリカに6ヶ月間だけ滞在しているついでに英語の勉強。けっこう英語が上手なメキシコ人の女性は「もっと英語を上達させたいの」。妻は「英語がうまく話せるようになりたいのと、知り合いとかつくるため」というわけで通いだした。

さきほどのメキシコ人の男性に話を戻すと、彼が英語教室に通う理由は「need(必要だから)」と一言で答えたという。趣味の延長か、生活の延長か。「いろんな人生があるんだなあ」と妻も感慨深げに話していた。

ところで、9月16日はメキシコの独立記念日。英語教室の会話練習でも、それぞれの国の祝祭日について話したらしい。
ちょうど、この日は僕が大学に向かう電車の中、新聞が座席に置いてけぼりだったので、手に取って読んだ。スペイン語圏の住民を対象にしたコミュニティ紙のようなものだった。
9月15日はエルサルバドール、グアテマラ、コスタリカ、ニカラグア、ホンジュラスの独立記念日であり、メキシコでも独立記念日前夜ということで重要な日だ。
この新聞も、独立記念日に絡めて、これらの国から来た移民の連帯をテーマにした企画紙面を盛り込んでいた。

「この企画紙面は、われわれのルーツを失わないように、その歴史、文化、観光地、郷土料理、祝賀イベントなどを取り上げます。故郷はいつもそこにあり、けして忘れることはありません」(少しだけ意訳)

スペイン語新聞には「ロムニー氏が勝利したら、移民政策改革はないでしょう」とオバマ氏の再選を支持するカリフォルニア州議会議員(民主党)のインタビュー記事も

※この日はアメリカ同時多発テロ「9・11」から、ちょうど11年。大学キャンパスでは、テロ被害者を追悼するため、小さな国旗300本ほどが歩道わきの芝生に立ててあった。

・英語教室の話の続きは、こちら

2012年9月6日木曜日

アメリカ大統領選に見る人種エスニシティ

8月下旬から留学先のロサンゼルスの大学院で授業が始まった。
9月5日、移民研究の授業の冒頭、先生が「昨日の民主党の全国大会を見た人?」と質問した。
「見ました。先日の共和党の全国大会と比べると、まるで別の国のことみたいですね」と答えると、先生は「本当に別の国みたいね」とうなづいた。

全国大会とは、民主・共和の両党が4年に一度の大統領選の候補者をそれぞれ決定する大会のことだ。
2012年は、民主党からは現職バラク・オバマ氏、共和党からは前マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー氏が候補者となる。

しかし、同じアメリカ国内で行われていることなのに、なぜ「別の国」なのか。
それは、民主党と共和党、それぞれの全国大会に出席している聴衆がまるで違うからだ。
8月27~30日にあった共和党全国大会では、会場を埋めた聴衆の100%近くが白人だった。
一方、9月4~5日(会期は6日まで)にあった民主党全国大会では、アフリカ系、ラティーノ、アジア系、白人・・・と多様な人種エスニシティを背景とした人々だった。

オバマ氏の再選に向けて応援演説するビル・クリントン元大統領。会場を埋めた聴衆はアメリカ国内のさまざまな人種エスニシティ集団を反映していた=現地テレビ映像より、2012年9月5日撮影

民主党と共和党の違いは、大きな政府/小さな政府の選択、同性婚や中絶の是非など、いろいろあるが、移民の受け入れ方にも違いがある。
正規の入国・滞在資格がないまま、アメリカで生活している非合法移民に対する姿勢もだいぶ異なる。
オバマ大統領は2010年、子どものころに親に連れられて入国した非合法移民の若者に対して、一定の条件で合法化の道を開く通称「ドリーム法案」の成立を目指したが、共和党の反対で法案は成立しなかった。ただし、大人を含めた非合法移民の強制送還の数は、オバマ政権になって増加しており、非合法移民自体を認めているわけではない。

非合法移民の若者をめぐる問題は、大統領選でも、民主党が有権者に支持を訴える一つのポイントとなっている。
9月5日の民主党全国大会で応援演説に立ったクリントン元大統領もこう訴えた。

「子どものころにアメリカに連れてこられたすべての若者に対して、アメリカにおける機会の平等を保証することによって、彼らが軍隊や大学で活躍できる道を開くという、オバマ大統領の判断を正しいと思うなら、あなたたちはバラク・オバマに投票しないといけない」と、ドリーム法案の内容にふれた。

前日9月4日の応援演説には、テキサス州サンアントニオ市の若手市長フリアン・カストロ氏(37)が大抜擢された。「オバマ大統領はドリーマー(ドリーム法案対象者)の若者たちのために行動を起こした」とオバマ氏の政策を支持。非合法移民の若者にはメキシコ出身者が多いが、メキシコ移民三世のカストロ氏をこうした大舞台に呼んだことも、中南米出身の移民(ラティーノ)に対する民主党の姿勢をはっきりと示している。
もちろん、共和党員のラティーノもいるし、こうした姿勢が民主党の得票率の上昇にそのままつながるわけはないが、民主党の戦略としてはわかりやすい。

応援演説に大抜擢されたメキシコ移民三世のフリアン・カストロ市長=現地テレビ映像より、2012年9月4日撮影

社会学者ダグラス・マシーらの調査によると、特に2000年以降、アメリカでは伝統的な移民受入州であったカリフォルニア、ニューヨーク、テキサス、フロリダ、イリノイの各州だけでなく、それまで移民受入州ではなかったジョージア州やノースカロライナ州などでもラティーノが増加傾向にあるという。

アメリカは2008年、アフリカ系としては初めてのオバマ氏を大統領に選んだ。当時、新聞記者だった僕は赴任していた県で、県内在住のアメリカ人にオバマ氏当選の感想を聞いてまわった。ある女性は「アメリカがやっとアメリカになった」と涙していた。
アメリカでは、ラティーノを中心に人種エスニシティの多様性が広がっていく。それは、将来の大統領選に何かしらの変化を与えることになるだろう。

明日はオバマ大統領の指名受諾演説が予定されている。
(非合法移民の若者たちについての言及はコメントに収録)

2012年9月1日土曜日

非合法移民の運転免許、働く若者たちへ

カリフォルニア州では、仕事に行くにも買い物に行くにも、車がないと生活しにくい。
というわけで、車を買って、自動車保険に加入した。
運転免許については、現在は仮免だが、スムーズにいけば9月中には本免がとれるはずだ。

ちょうど8月、カリフォルニア州議会が非合法移民でも運転免許をとることができる法案を承認した。
アメリカに滞在する資格がないのに、運転する資格はあるというのはどういうことなのか。


ロサンゼルスのダウンタウンを貫く高速道路=2012年7月撮影

アメリカ国内に約1150万人暮らしている非合法移民は強制送還の対象だが、その多くがアメリカ経済を底辺で支える低賃金労働者だ。
とくに非合法移民が多いカリフォルニア州。アメリカ市民や合法移民(広い意味で留学生の僕も含む)と同じように、この地で働く非合法移民にとっても車は欠かせない。

気鋭のネット新聞The Huffington Postなどによると、このカリフォルニア州の法案の背景には二つの要素があるという。

一つは、オバマ大統領の非合法移民関連政策だ。
オバマ大統領は、16歳以下のときにアメリカに入国し、現在30歳以下の非合法移民の若者に限って、正式に労働を許可し、強制送還も控えるという政策を行っている。カリフォルニア州の法案の対象者は、このオバマ政策の対象者ということになっている。

もう一つの理由は、交通安全対策だ。
非合法移民が免許を取得する過程で、交通ルールを知り、自動車保険に加入するようになれば、重大な交通事故を未然に防ぐことができる。このように、ロサンゼルス市長を含めた法案支持者は説明している。アメリカでは、死亡事故の5件に1件は、無免許ドライバーによるものらしい。

後者の理由は、入国管理の問題と交通安全の問題を切り分けることで、政治家が反「不法移民」の有権者の批判を避ける狙いもあるだろう。
重要なのは前者の理由。幼いころ、親とともにアメリカに「不法」に入国した若者たちが、アメリカの市民権はないものの、実質的にはアメリカ人として成長して、アメリカで働いているという現実が、こうした法案を後押ししている。

労働者であるということ、子どもである(であった)ということの二つが重なったとき、そうした人々の現実はいつも力強い。

・The Huffington Postの関連記事は、こちら
・NBC Latinoの関連記事は、こちら