2012年9月6日木曜日

アメリカ大統領選に見る人種エスニシティ

8月下旬から留学先のロサンゼルスの大学院で授業が始まった。
9月5日、移民研究の授業の冒頭、先生が「昨日の民主党の全国大会を見た人?」と質問した。
「見ました。先日の共和党の全国大会と比べると、まるで別の国のことみたいですね」と答えると、先生は「本当に別の国みたいね」とうなづいた。

全国大会とは、民主・共和の両党が4年に一度の大統領選の候補者をそれぞれ決定する大会のことだ。
2012年は、民主党からは現職バラク・オバマ氏、共和党からは前マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー氏が候補者となる。

しかし、同じアメリカ国内で行われていることなのに、なぜ「別の国」なのか。
それは、民主党と共和党、それぞれの全国大会に出席している聴衆がまるで違うからだ。
8月27~30日にあった共和党全国大会では、会場を埋めた聴衆の100%近くが白人だった。
一方、9月4~5日(会期は6日まで)にあった民主党全国大会では、アフリカ系、ラティーノ、アジア系、白人・・・と多様な人種エスニシティを背景とした人々だった。

オバマ氏の再選に向けて応援演説するビル・クリントン元大統領。会場を埋めた聴衆はアメリカ国内のさまざまな人種エスニシティ集団を反映していた=現地テレビ映像より、2012年9月5日撮影

民主党と共和党の違いは、大きな政府/小さな政府の選択、同性婚や中絶の是非など、いろいろあるが、移民の受け入れ方にも違いがある。
正規の入国・滞在資格がないまま、アメリカで生活している非合法移民に対する姿勢もだいぶ異なる。
オバマ大統領は2010年、子どものころに親に連れられて入国した非合法移民の若者に対して、一定の条件で合法化の道を開く通称「ドリーム法案」の成立を目指したが、共和党の反対で法案は成立しなかった。ただし、大人を含めた非合法移民の強制送還の数は、オバマ政権になって増加しており、非合法移民自体を認めているわけではない。

非合法移民の若者をめぐる問題は、大統領選でも、民主党が有権者に支持を訴える一つのポイントとなっている。
9月5日の民主党全国大会で応援演説に立ったクリントン元大統領もこう訴えた。

「子どものころにアメリカに連れてこられたすべての若者に対して、アメリカにおける機会の平等を保証することによって、彼らが軍隊や大学で活躍できる道を開くという、オバマ大統領の判断を正しいと思うなら、あなたたちはバラク・オバマに投票しないといけない」と、ドリーム法案の内容にふれた。

前日9月4日の応援演説には、テキサス州サンアントニオ市の若手市長フリアン・カストロ氏(37)が大抜擢された。「オバマ大統領はドリーマー(ドリーム法案対象者)の若者たちのために行動を起こした」とオバマ氏の政策を支持。非合法移民の若者にはメキシコ出身者が多いが、メキシコ移民三世のカストロ氏をこうした大舞台に呼んだことも、中南米出身の移民(ラティーノ)に対する民主党の姿勢をはっきりと示している。
もちろん、共和党員のラティーノもいるし、こうした姿勢が民主党の得票率の上昇にそのままつながるわけはないが、民主党の戦略としてはわかりやすい。

応援演説に大抜擢されたメキシコ移民三世のフリアン・カストロ市長=現地テレビ映像より、2012年9月4日撮影

社会学者ダグラス・マシーらの調査によると、特に2000年以降、アメリカでは伝統的な移民受入州であったカリフォルニア、ニューヨーク、テキサス、フロリダ、イリノイの各州だけでなく、それまで移民受入州ではなかったジョージア州やノースカロライナ州などでもラティーノが増加傾向にあるという。

アメリカは2008年、アフリカ系としては初めてのオバマ氏を大統領に選んだ。当時、新聞記者だった僕は赴任していた県で、県内在住のアメリカ人にオバマ氏当選の感想を聞いてまわった。ある女性は「アメリカがやっとアメリカになった」と涙していた。
アメリカでは、ラティーノを中心に人種エスニシティの多様性が広がっていく。それは、将来の大統領選に何かしらの変化を与えることになるだろう。

明日はオバマ大統領の指名受諾演説が予定されている。
(非合法移民の若者たちについての言及はコメントに収録)

3 件のコメント:

  1. 9月6日、オバマ大統領が指名受諾演説をした。
    この4年間の成果として、非合法移民の若者たちについてもふれた。
    2008年の大統領選挙の勝利について「あれは私ではなく、あなたたちの勝利だった」としたうえで、「アメリカの学校に通い、アメリカの国旗に向かって忠誠を示している移民の子どもたちが、彼らが唯一祖国と呼んでいるこの国から強制送還されることはもはやなくなったのです」と語った。

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  2. ご指摘の通り、民主党大会の聴衆は人種的に多様でしたね。白人やアフリカ系、ラティーノ、アジア系、それからターバンを巻いたインドあたりの人々など。オバマ大統領の演説が終わった直後、感極まって涙を流すアフリカ系女性がちらりと映ったところが印象的でした。

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  3. たしかにターバンを巻いた人たちもいましたね。こうした聴衆は各州の代表団ということですが、多様性を演出するように選ばれているのか、自然とそうなっているのか、気になるところです。コメントいただき、ありがとうございます。直接、こちらに書いていただくのは初めてなのでうれしいです。

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