2015年6月28日日曜日

ナバホ族居留地で楽しむ絶景、砂漠地帯の観光とファーストフード

ラスベガスとグランドキャニオン周遊3泊4日の旅。ラスベガスで一泊した後はコロラド川が馬蹄形の谷底に流れる絶景ホースシューベント(Horseshoe Bent)に向かった。

アリゾナ州のページという町から車で5分ほどの場所。駐車場から炎天下の砂道を15分ほど歩くと断崖絶壁のホースシューベントを見下ろすことができる。小さな案内板があるだけで、入場料も転落防止柵もない。中国やフランスから多くの観光客が足を運んでおり、それぞれがカメラ撮影に夢中で300メートル下に転落してしまわないか、やや冷や冷やするものの、それだけ臨場感があり、見とれてしまう絶景だ。

馬蹄形の渓谷ホースシューベントを緑に光るコロラド川がゆっくり流れる。

この日はページで一泊。翌日は激しい洪水によって不可思議に浸食された谷であるアンテロープ・キャニオン(Antelope Canyon)に向かった。北米先住民・ナバホ族の居留地内にあり、ナバホ族の若者たちがツアーを組んで案内してくれる。アンテロープ・キャニオンは美しい写真が撮れる場所としても有名で、カメラ撮影ツアーに参加する人も多い。予約確認の際、ナバホ族の男性が「Arigato」と言ってきたので「ナバホの言葉では『ありがとう』はなんて言うんですか」と聞くと、「Ahéhee'」と教えてくれた。

二つある谷の一つ、アッパー・アンテロープ・キャニオンで僕たちが参加したツアーを担当したのは20代の女性シニーさん。谷を歩き進む途中、ところどころで撮影ポイントを親切に教えてくれた。日光の量で谷の側面の色合いが変化し、オレンジや黄色、青色、紫色など色鮮やかな写真を撮影することができる。

ナバホ族の女性シニーさん(右から2人目)の案内でアッパー・アンテロープ・キャニオンに入っていく。
アッパー・アンテロープ・キャニオン内を歩く観光客ら

ゆっくり谷を歩き、出口に出た。振り返ると、谷の出口の上部に白い鳥の糞のようなものがへばりついていた。シニーさんに聞くと「フクロウの巣です。ナバホの人はこの谷を『フクロウの家(Owl's Home)』と呼んでいます」。一日に2千人の観光客が訪れるというアッパー・アンテロープ・キャニオン。フクロウも落ち着かないだろけど、こんな乾いた場所も動物の棲家になっていることは印象的だった。

次はロウワー・アンテロープ・キャニオンに向かう。こちらは足場が悪いが、より幻想的な形状の谷を楽しむことができる。日光の加減を意識しつつ、写真撮影に力が入った。肉眼でも満足いく自然美だけど、カメラを通して肉眼では捉えきれない鮮やかな風景を切り取ることができた。

ロウワー・アンテロープ・キャニオンには階段を使って降りていく。1997年には鉄砲水によって洪水が起き、谷を散策していた観光客ら11人が死亡する事故が起きた。
幻想的なロウワー・アンテロープ・キャニオンを進む観光客ら

ロウワー・アンテロープ・キャニオンでは、カメラの撮影位置に注意すると、複数の色が鮮やかな谷間の側面を撮影することができる。

ロウワー・アンテロープ・キャニオンの谷間から這い出てくる観光客ら


こうした絶景巡りと同じくらい興味深かったのが、ページの町で垣間見たナバホ族の人々の生活だ。

ページの町は、ダム建設労働者の町として1957年、もともとナバホ族居留地内にあった土地に建設され、アメリカ国内でも比較的新しい自治体の一つ。ナバホ居留地に囲まれており、その人口7,291人(2010年)の34%がナバホ族を中心とした先住民だ。

気温が摂氏40度を超える砂漠地帯を車で切り抜けて、ポツンと現れたページの町にたどり着くと、おなじみのマクドナルドが待っている。その隣には大型食料品店のウォルマート。ウォールマートに入ると、ロサンゼルスと同じ商品がずらっと並んでおり、ナバホ族の店員が働き、ナバホ族の客が商品を買う。


ウォルマートに買い物に来たナバホ族の祖母(右)、母、娘

こうした遠隔地で食料を安価で提供するには、大量生産・大量輸送のネットワークが必要で、その意味ではマクドナルドやウォルマートのような大企業は地域の食糧インフラを支えていると考えることもできるだろう。

しかし、現実はそれほど単純ではない。今年5月のNPRの報道によると、こうした大企業が販売するファーストフードの影響で、ナバホ族の3人に1人が糖尿病に苦しんでおり、全米平均の3倍の発症率という。そこでナバホ族自治政府は、糖尿病につながるようなファーストフードや炭酸飲料に新たな税金を課す法律を可決した。ナバホ族の半数は無職であるため、より健康的で値段の高い食料を買う経済的な余裕がないという課題が残っているものの、ナバホ族自治政府はファーストフード税の税収で農園事業などを支援していく方針という。

たしかに、ページの町で見たナバホ族は肥満傾向の人たちが多かった。マクドナルド、タコベル、サブウェイ…。マクドナルド好きな僕を含めて、多くの人は安くて美味しいので食べてしまう。ただ、食生活の選択肢がそうしたファーストフード店に限定されていった場合、遠隔地で暮らすナバホ族のように深刻な健康問題が生じる。おそらくファーストフードを販売する大企業が撤退することはないだろう。ナバホ族のファーストフード税がどのように機能するのか注目していきたい。

ウォルマート内のサブウェイ。僕がいた時間は客の8割はナバホ族の人々だった。
ホースシューベントとアンテロープ・キャニオンの旅は、アメリカ留学して初めて北米先住民の生活のごく一部を垣間見る時間になった。強制移住や虐殺などの歴史的悲劇を経験してきた先住民が、アメリカ社会でどのように部族文化を守りつつ、現代的に暮らしているのか理解を少しだけ深めることができた。

ページの人口は、こちら
ナバホ族内のファーストフード問題については、こちら

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