たまたまアメリカの公共放送PBS(the Public Broadcasting Service)を見ていると、興味深いインタビュー番組を放送していた。
インタビューを受けているのは、全米で毎日平均200万人の視聴者をもつというスペイン語ニュース番組「Noticiero Univision(ノティシエロ・ウニヴィシオン)」のメインキャスター2人だ。
アメリカでは中南米、カリブ海系の、いわゆる「ヒスパニック/ラティーノ」が約3500万人(総人口の12%、2010年国勢調査)暮らしており、最大のマイノリティ集団となっている。
そうしたラティーノコミュニティに対して、「Noticiero」は、スペイン語で世界情勢、自然災害、大統領選挙など国内外を問わず幅広く報道している。ちなみに「Univision」は放送局名だ。
PBSでインタビューを受けたキャスター2人は、メキシコ系アメリカ人2世のマリア・エレナ・サリーナス(Maria Elena Salinas)と、メキシコ出身でアメリカ国籍もあるホルヘ・ラモス(Jorge Ramos)。2012年大統領選とラティーノ有権者の動向について語っていた。
ラティーノ有権者は民主党支持者が比較的に多いが、サリーナスとラモスも基本的にはオバマを支持する方向で発言していた。
サリーナスは「ラティーノ有権者は大統領選挙の結果を握る集団です。ということは、今回はオバマが勝つということでしょう」。ラモスも、オバマ大統領の移民政策に物足りなさを感じつつも、オバマ大統領が指示したドリーム法案などを評価している。
共和党候補ロムニー氏については冷ややかだ。ロムニー氏は、ラティーノ有権者へのアピールも含め、父親がメキシコで生まれたことを明らかにしている。英語版ウィキペディアによると、アメリカ市民の祖父母がメキシコで生活していたときに生まれた子どもということらしい。
また、ロムニー氏の息子がなかなか流ちょうなスペイン語でロムニー氏への支持を訴える選挙CMを流している。
キャスター2人は、父親の出生話とスペイン語CM自体は歓迎しつつも、「父がメキシコ生まれで、自分がラティーノであると認めない人はいない」(ラモス)、「細かい政策を見ていくとラティーノの期待に沿うものではない」という趣旨でインタビューに答えていた。
大統領選におけるラティーノ有権者へのアピールについて、ラモスは「私はこれをコロンブス症候群と呼んでいるんですが、ラティーノは4年に一回(大統領選のたびに)、『再発見』されて、また残りの3年間は忘れられてしまう」と皮肉っていた。
最後に、この大統領選の争点としては、ラティーノ住民の失業率の高さを引き合いに「経済・雇用」をあげていた。この点は人種・エスニシティを問わず、同じ問題意識を共有している。また、アメリカの移民の歴史を振り返れば、移民排斥の声は経済不況の時に高まる。その意味でも、経済は重要なポイントといえる。
彼らはラティーノコミュニティのスポークスマン的な役割も担っているといえるだろう。
サリーナスが「エスニック・メディアとメインストリーム・メディアという区別がありますが、我々はもうメインストリームなんです。唯一の違いは言葉が違うというだけです」と話していたのが印象的だった。
先日、僕の通っている大学院で講演した著名な社会学者によると、2035年には、これまでマジョリティだった、いわゆる白人はアメリカ人口の過半数を切る可能性が高く、アメリカの未来のリーダーは、こうしたラティーノの若い世代から選んでいく必要があると話していた。
もちろん、中南米からの移民が今後も現在の調子で増え続けるのかという問題はあるとしても、ラティーノが政治的にも文化的にもエスニック・マイノリティではなくなり、ラティーノ大統領が誕生する日が21世紀の前半には来るのかもしれない。
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