2015年7月26日日曜日

ミシシッピー川とニューオリンズ、アフリカとヨーロッパが織り成す多様な文化

ルイジアナ州ニューオリンズ、アメリカ内陸部と大西洋を結ぶミシシッピー川河口の都市だ。
17世紀にフランス人が進出していた五大湖地域とメキシコ湾、さらに大西洋を結ぶミシシッピー川。その河口でニューオリンズが発展した。

先住民の狩猟社会だった河口地域は、17世紀以降、フランス、スペイン、アメリカが港町ニューオリンズとして支配した。その間に多くのヨーロッパ系またアフリカ系の人々が自発的また強制的に移住し、極めて多様でユニークな文化を生み出した。19世紀前半には環大西洋貿易の要所として、アメリカ資本主義の発展に大きく影響を与えた。

ふだんはアジアと縁の深いアメリカ西海岸に焦点を当てて勉強しているけど、アメリカ移民史を学び深めていく中で、ニューオリンズはどうしても行ってみたい街だった。行けるときに行ってしまおうと思い立ち、急きょ二泊三日の予定で妻と一緒にロサンゼルス発午前7時半の飛行機に乗った。


テキサス州ダラスで別の便に乗り換えて、午後3時ごろにルイ・アームストロング国際空港に到着。ルイ・アームストロング(1901~1971)はニューオリンズで発展した音楽ジャズを盛り上げたアフリカ系アメリカ人の演奏家だ。ジャズも聞きに行きたい。

街の中心部にあるホテルに着いて少し休憩した後、ミシシッピー川を臨む公園に向かった。川幅600メートルの広い川を茶色に濁った水がゆっくり流れる。

約200年前後には、大量のモノとヒトを載せた蒸気船がこの川岸にひしめき合っていたんだろう。ニューオリンズは天然資源が少なかったものの、市場経済が急激に拡大するなか、交易を通して発展。アメリカ産の農作物を大量に詰め込んでヨーロッパに向かった蒸気船がアメリカに戻る際、その空いたスペースにヨーロッパ人移民を乗せて帰ってきた。資本主義の拡大と移民の流入は切り離せない。この川が北アメリカ大陸の歴史に与えた影響を想うと少し胸が熱くなった。

ニューオリンズのミシシッピー川河口を貨物船がゆっくり上流へ向かう。
1820~1840年代のニューオリンズ港の様子
触れたくなったのでミシシッピー川に手を突っ込む。近くではホームレスの若い男性が水浴していた。

公園すぐ近くには1862年創業の老舗喫茶店「Cafe du Monde」がある。屋根つきのテラスで名物のベニエ(四角いドーナツ)とカフェオレを楽しむ。過去150年間にどれだけの人たちが世界中からニューオリンズに集まり、ここで長旅の疲れを癒したのだろうか。そういう人の流れに少し自分も参加できたような気がした。

平日夕方の「Cafe du Monde」は空いていてゆっくりできた。
山盛りにかかった粉砂糖のほのかな甘みが揚げたてのベニエに合う。

日本にも「ミスタードーナツ」を経営しているダスキンが「Cafe du Monde」の支店を小規模で展開しているけど、ミシシッピー川沿いの本店でしか味わえない歴史がある。


夜はジャズの生演奏を楽しめる有名なコンサート会場「Preservation Hall」へ。フランスやスペイン統治時代の面影を残す地区フレンチ・クオーターの中心部に位置し、午後8時からのライブに観光客やジャズファンが長蛇の列を作る。会場はフレンチ・クオーターで最古の建物の一つで、1960年代から優れたジャズ演奏家がバンド演奏を行う。平日は一人15ドルとチケットも良心的だ。
僕らも7時過ぎから並び、亜熱帯の蒸し暑さの中、ペットボトルの水を飲みつつ待った。

フレンチクオーター中心部にあるPreservation Hall(写真左側)には、開演1時間前から観客が列を作って待つ。

いよいよ開場。小さな会場に観客がぎっちり詰まる。たまたま一番前から2番目の席が空いていた。司会の若者に「それではプリザーベーション・ホール・オールスターズです!」と紹介されて演奏者6人が会場に入ってきた。5人はアフリカ系で、残りの一人は日本人女性ピアニストの「マリ・ワタナベ」という方だった。ジャズは奴隷音楽を含むアフリカ系音楽と西洋音楽が混ざって19世紀末から20世紀初頭に誕生したとされており、現在では世界で愛されている。

日本人ピアニストが本場ニューオリンズで活躍している姿に感激し、また奴隷貿易という人類の悲劇を背景にしつつ、いろいろな文化が混ざって誕生したジャズという音楽の包容力を実感した。

もちろんバンドの生演奏は即興的な要素が加わり圧巻。有名な「What a Wonderful World」を聞いた妻は「じーんときたわ。ジャズに詳しくなくても聞き入ってしまう」と感動していた。


ジャズを楽しんだ後は地元料理を食べに行く。ニューオリンズでは音楽と同様に料理も様々な文化が混ざって発展した。フランスを中心としたヨーロッパの料理とアフリカや先住民の料理などが混ざり合ったクレオール料理と、18世紀に現在のカナダ東部からルイジアナ州に移り住んだフランス系住民が継承したケージャン料理が人気で観光の目玉でもある。

この日は人気店「Oceana Grill」で、炭火焼牡蠣、ワニの揚げ物、ザリガニのエトゥフェー(étouffée)というスープ料理を食べた。エトゥフェーは魚介のダシが効いていて、ザリガニもたくさん入っていて食べ応えがあった。初めてのアメリカ南部。目で、耳で、舌でニューオリンズを満喫した。

スパイスの効いたケージャン風のソースがかかった炭火焼牡蠣

地元産ワニの揚げ物。まずくもなくうまくもない。

ザリガニ入りエトゥフェーは魚介のコクがあり、かつスパイシーで美味しかった。

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