たまたま興味深い投稿があった。
かつて僕が住んでいた町の出来事。そこで人気の中華料理店の前に、首のない犬のような生き物の死骸が放置されていたという内容を複数枚の写真付きで、ある住民の女性が投稿した。
彼女は「これがいつも私たちが食べてきたものですよ」とコメントをつけた。投稿はすぐに住民ら50人以上にシェア(共有)されて、一気に広がった。僕の知人もシェアし、僕も投稿を見ることができた。
コメント欄には「これ犬?」、「オエッ」、「ああ気持ち悪い。なんでこんなことができるの?」などと続く。ある人が「これ本当?」と聞くと、投稿者の女性は「本当よ。これがいつも私たちが食べてきたものよ」と自信まんまんに答える。
その後しばらく「気持ち悪い」という内容のコメントが続いたが、ある女性がこう切り出した。
「それは嘘ですよ(笑)」。
書き込んだのは、その中華料理店で働く中国人移民の女性だった。
「私たちはちゃんとした人間ですし、そんなことをすることはありませんよ。これ(死骸の動物)をずっと食べてきたって書かれているのは残念です。どうやったらそんなことができるっていうんですか。お願いです。こうして騒動にする前に本当かどうか調べてください。レストランは今日も開いています。ぜひお店に来て、気になるなら、何匹の犬がいるか調べてもらってもいいですよ。よろしくお願いします」
続けて、彼女は「私たちは中国人です。汚い人じゃありません」と大文字で書き込んだ。「中国人」と「汚い人」のスペイン語の発音が似ているのを逆手にとって反論した。
すると、中国人女性の友人たちが「ここの中華料理はおいしいよ。誰かが悪さするために店の前に死骸を置いたんでしょ」、「これは中国人の信用を落とすために誰かがやったのよ」などとコメントを投稿した。
中国人女性は「私はこの町に住んで16年になります。こんなこと、できるわけありません。私たちはコスタリカに住んでいます。ここではこんなことは許されないって知っています。誰かの悪意で起きたことですが、神のご加護を祈ります」と書き加えた。
最初の投稿は一切の証拠がないまま、「ふだん住民が食べている焼き飯に犬の肉が入っている」と主張し、一気にフェイスブック上で拡散した。
しかし、中国人女性は投稿者に対して厳しい言葉をかけることなく、たんたんと店の潔白を説明し、彼女の友人たちがそれを支えた。最終的に50件近くに増えたコメントの内容は、店を応援する声に変わった。最初に情報を流した女性に「噂して楽しむことしか能がない」と批判する声もあった。
僕が留学していたころ、僕が町で唯一のアジア人男性だった。だから、ものすごく目立って友だちもたくさんできた。ただ、1年間だけの高校留学と、何十年も移民として現地で暮らしていくことはまったく違う。この町で暮らすアジア人は今でも数えるほどしかいない。
今回のような人種差別的な嫌がらせを証拠なく言いまわった女性に対して、堂々と丁寧に対応していた、この中国人移民の女性の姿勢は立派だと思った。また、疑わしい内容の投稿に同調してシェアする人だけでなく、その内容を疑って批判する人も多かったことも印象的だった。
◇
けど、実際、コスタリカ社会の常識として、こういう特定の飲食店やエスニック集団を標的にした嫌がらせに対して、法的にどのように対処できるんだろうか。というわけで、弁護士資格のあるコスタリカ人の友だちに聞いてみた。店の経営者は、名誉棄損罪で虚偽の情報を流した女性に対して祖なぎ賠償を求めることが可能という。弁護士の友だちも「こういう情報を彼女が投稿したのは本当に気分が悪いこと」と言っていた。かなり悪質だったので、経営者は訴えていいと思う。
そんなこんなでしばらく時間が経つと、最初の投稿者はフェイスブックから問題の投稿を削除していた。結果的にいろんな批判や注意のメッセージを受け取り、問題の深刻さに気付いたんだろう。けど、気付いただけじゃなく、期間限定でもいいから訂正と謝罪の投稿をフェイスブック上で出したり、中華料理店に直接徹底的に謝罪してほしいところだ(しないと思うけど)。
翌日、フェイスブックで広がった情報は一部のコスタリカ国内ネットメディアが報じることに。
僕が読んだ2本の記事は、どちらも中華料理店の料理と動物の死骸の関係を示す証拠も、中華料理店関係者への取材もないまま、直訳すると「犬の肉が中華料理店で使われていたかもしれない」、「中華料理店の前で解体された犬のようなもの見つかる」と見出しをつけて報じており、見出しだけ読んだ人は「中華料理に犬の肉が使われていた」と理解するだろう。
この段階では、死骸が犬かどうかを含めて、何も分かっていない。誰かが死骸を中華料理店前に捨てた可能性もあるし、もちろん犬を食べる文化もあるから誰かが食べていた可能性もゼロじゃない(ちなみに、今は法律で禁猟になったが、コスタリカにはイグアナを食べる文化がある)。
ただ、何もわかっていない段階で「中華料理店」と「(コスタリカでは考えられない)犬食」を結びつけた報道の根底には、中国人に対する偏見があるといって間違いないだろう。
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翌日、フェイスブックで広がった情報は一部のコスタリカ国内ネットメディアが報じることに。
僕が読んだ2本の記事は、どちらも中華料理店の料理と動物の死骸の関係を示す証拠も、中華料理店関係者への取材もないまま、直訳すると「犬の肉が中華料理店で使われていたかもしれない」、「中華料理店の前で解体された犬のようなもの見つかる」と見出しをつけて報じており、見出しだけ読んだ人は「中華料理に犬の肉が使われていた」と理解するだろう。
この段階では、死骸が犬かどうかを含めて、何も分かっていない。誰かが死骸を中華料理店前に捨てた可能性もあるし、もちろん犬を食べる文化もあるから誰かが食べていた可能性もゼロじゃない(ちなみに、今は法律で禁猟になったが、コスタリカにはイグアナを食べる文化がある)。
ただ、何もわかっていない段階で「中華料理店」と「(コスタリカでは考えられない)犬食」を結びつけた報道の根底には、中国人に対する偏見があるといって間違いないだろう。
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