大学キャンパスでしばしば使うトイレの壁に、ロサンゼルスならどこでもありそうな学生の落書きがある。この落書きは、非白人の学生が白人の学生を蔑む内容だった。
「フラタニティに入っているやつは、だいたい、アホで、白人で、ろくでもないやつ、金持ちだけど」
フラタニティ(fraternity)とは男子学部生の学生団体。一つの大学に複数のフラタニティがあり、パーティを開くなどして友情を深める。アフリカ系やアジア系など非白人のフラタニティもあるけれど、フラタニティといえば白人男子学部生が羽目を外して遊んでいるというイメージが強い。また、大学キャンパスでは少数派である非白人の学生が周辺化されていることに対する不満も少なくない。この落書きの背景には、人種と階級を巡る学生間の緊張関係がある。
この落書きの左隣には、「フラタニティのファッグ(同性愛者に対する差別語)←本当のファッグ」と明らかに差別的な言葉を使って、フラタニティの学生を攻撃している。ここでは人種的マジョリティの白人学生に対する不満と、性的マイノリティの同性愛者に対する差別が絡む。
そこに別の学生が「なんでまだファッグなんて言葉を使ってんの?」と黒のペンで書き、さらに別の学生が「なんでかというと、こいつらがアホだから」と青のペンで書き加えている。さらに青のペンの学生は「フラタニティのファッグ←本当のファッグ」という元の落書きに対して「ファック・ユー」と矢印付きで付け加えていた。
複数の学生による落書きはここらへんで止まると思いきや、それら全体のやり取りに対して、またまた別の学生が「自分のおかんとやってまえ、ボケナス」とスペイン語で大きく書き加えていた。
人種、階級、セクシャリティが絡む攻撃的または差別的なやり取りに、言語を通したエスニシティ的な要素も加わり、この一連の落書きだけで、アメリカ人学部生の生活における差別構造や緊張関係がなんとなく浮き上がってくる。
けれど、なぜ差別語を含むこの落書きが半年以上ずっと消されずに残っているのだろうか。その理由の一つとしては、軽蔑の対象が多数派の白人であるという点が挙げられる。もしも、この落書きが少数派の非白人学生に対するものであれば、すぐに誰かが大学に報告し、人種差別事件として問題になるだろう。
おそらくフラタニティに所属する白人学生がこの落書きを見ても、それ自体がキャンパス内の白人学生の立場に脅威を与えないため、「はいはい」と笑って済ますことができるだろう。ある意味では、この落書きが放置されていること自体がキャンパス内で白人学生の力が強く、構造的に被差別の対象ではないという状況を裏付けている。
このように、どちらかといえばリベラルな環境であるはずの大学キャンパスでも、人種・エスニシティ、階級、セクシャリティを巡る差別構造や緊張関係を観察することはそれほど難しいことではない。
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