2015年12月6日日曜日

移民と銃と保守主義、サンバーナディノ市の乱射事件

12月4日、ロサンゼルス総領事館から緊急の注意喚起メールが届いた。
在留邦人、渡航者の皆様へ
12月2日、サンバーナディノ市において銃撃事件が発生しました。(中略)FBI当局等はこれをテロ事件として扱い、捜査をしている過程において過激派とのつながりなどが判明している状況です。(中略)事件に巻き込まれないように十分に気をつけるよう願い申し上げます。
ロサンゼルス総領事館に在留届を出していると、こうした注意喚起が届くことがある。このメールで事件に巻き込まれる可能性が低くなるわけではないけれど、インターネット時代における日本政府と在留邦人のつながり方を具体的に示す事例として興味深い。

この事件では、若い夫婦が仕事先で銃を乱射し、14人が死亡、21人が負傷した。夫婦がイスラム過激派の影響を受けた可能性もあるとして、当局がテロとして捜査を進めている。オバマ大統領も6日、事件をテロと認定し、その対策に力を注ぐと語った。

アメリカ国内では、パリの同時多発テロ事件以降、シリア難民を受け入れるべきではないという意見が共和党支持者を中心に広がっていた。今回の銃撃事件は、そんな難民・移民の受入反対論をさらに刺激している。容疑者の夫はパキスタン系アメリカ人で妻はパキスタン人移民で、サウジアラビアで知り合ったという。

移民反対団体「Federation for American Immigration Reform」代表のダン・ステインは、容疑者の妻がパキスタン人移民であったことを取り上げ、「ビザであれ、難民であれ、我々の国に入ってくる人々の身元について、常に十分な調査ができるわけではない」として、移民の入国を制限する必要があると訴えている。

そうした意見に対して、国務省の広報官は2001年のアメリカ同時多発テロ以降、アメリカ政府は厳しい難民・移民の入国審査を続けてきていると説明している。移民支援団体の多くは、今回のサンバーナディノ市の事件が移民排斥の理由に使われてはならないと主張している。

アメリカ史を振り返ると、疑似科学的な人種主義や反共主義、不景気などの影響で、東・南ヨーロッパ人、アジア人、メキシコ人らに対する移民排斥の運動が各時代に存在してきた。特に1970年代以降、多くの非合法移民を含むメキシコ人や中央アメリカ出身者は移民排斥論者の主な批判対象になっているが、アメリカ同時多発テロ以降、イスラモフォービア(イスラム恐怖症)の影響で中東出身者を警戒する声が保守層の間で強まってきた。

各時代で程度は違うものの、移民制限論者の根底には、白人のキリスト教徒を中心としたアメリカ社会を守ろうという人種的・宗教的な保守主義がある。そうした保守層の不安や不満に訴えて人気を集めているのが、共和党大統領候補の中で現在支持率が最も高い不動産王ドナルド・トランプだ。

トランプはパリの事件後、シリア難民の入国について記者から質問された際、すべてのイスラム教徒の移民を管理する全国的なデータベースが必要だと主張。さらにサンバーナディノ市の事件直後は「ところで、もしもパリの人々やカリフォルニアの人々が、もしも(犯人以外に)誰か銃を持った人がいたら、そしてその使い方を知っていたら、それでその(事件現場の)部屋にいたら、(彼らが犯人を先に撃ち殺すから)きっと死人は出ないでしょう」と語り、テロを防ぐ手段として銃所持の重要性を改めて訴えた。

アメリカ国内では銃による殺人事件が繰り返されている。2015年だけでも、サンバーナディノ市の事件以前に、354件の乱射事件(死傷者4人以上)が発生している。こうした異常な状況にオバマ大統領を含め多くの人々が銃規制を求める声を上げている。

アメリカで2015年に4人以上の死傷者を出した乱射事件の現場。PBSのニュースサイト(http://www.pbs.org/newshour/rundown/heres-a-map-of-all-the-mass-shootings-in-2015/)から。

一方で、アメリカの保守層では銃規制反対の声が根強い。トランプは、パリやカリフォルニアで痛ましい事件が起こるたびに、移民制限と銃所持という保守層が好む意見に言及し、支持を拡大しようとしている。7日にはテロ対策が整うまでイスラム教徒の入国を禁止すべきと明言した。こうした発言はテロとは関係のないイスラム教徒全体への偏見を強める。

第二次世界大戦中、日系人強制収容を経験した俳優のジョージ・タケイは「真珠湾攻撃の日(7日)にトランプがこの計画(イスラム教徒の入国禁止)を発表したのは皮肉なこと...この計画は阻止してあらゆる憎悪を否定しないといけない。そうじゃないと(日系人が経験したような)過去と同じ過ちを繰り返すでしょう」とフェイスブックでトランプを批判した。

移民と銃というアメリカ社会を歴史的に特徴づけてきた二つの要素が今回の乱射事件で絡まり合い、2016年大統領選を前に、保守層の中で反イスラム・ポピュリズムの拡大につながっている。とはいえ、アメリカ経済が回復基調ということもあり、感情的で極端な主張を繰り返すトランプが保守層の一部を超えて支持を集めるような状況には至らないだろう。

・事件に関連した移民支援・反対の両議論については、こちら
・事件を受けたトランプのコメントは、こちら
・シリア難民を巡るトランプのコメントは、こちら

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