2015年8月18日火曜日

大統領予備選、ドナルド・トランプ候補、排外主義的発言で支持拡大

2016年アメリカ大統領選に向けたキャンペーンが本格的に始まっている。
大統領選本番を前に、民主党と共和党でそれぞれ大統領候補者を一本化して公認候補を選ばないといけない。これを大統領予備選挙という。

民主党候補者としては、初の女性大統領になる可能性があるヒラリー・クリントンや、自ら民主社会主義者だと公言するバーニー・サンダースらが話題に上がっている。けれども、2015年夏の選挙戦報道は共和党候補者のドナルド・トランプ(Donald Trump)に集中している。

トランプは、アメリカの人気リアリティ番組のホストもつとめる実業家。不動産ビジネスが主な収入源で、この前、シカゴを旅行したときも、一等地のドュサーブル橋付近に「TRUMP」とサインを掲げた高層ビルが建っていた。

シカゴの一等地にトランプが建てた高層ビル(写真右)には「TRUMP」と彼の名前が記されている。

2015年8月現在、共和党からは18人が大統領選に立候補する意思を示しているが、その中ではトランプが群を抜いて支持を得ている。この高い支持率の背景には、移民問題に対する彼の極端に強硬な姿勢が保守層の一部に受けていることが挙げられる。

ドナルド・トランプ(写真左から5人目)ら共和党予備選挙の候補者ら(KTLAホームページから)

今年6月、トランプは選挙戦開始のスピーチで「(メキシコからの移民は)薬物を持ってくる。犯罪を犯す。彼らは強姦犯だ。そして、おそらく一部はいい人々だろう」と発言。アメリカ経済を支えているメキシコ人移民全体を犯罪者扱いするような発言であり、ラティーノ・コミュニティやリベラル層からトランプを批判する厳しい声が上がった。

この発言を巡り、共和党予備選候補者の討論会で司会者に「証拠はなんですか」と問われると、トランプは「私が候補者じゃなかったら、あなたも不法移民について語らないでしょう」とごまかしたものの、それでも聴衆の拍手を得た。

さらに今月、彼が示した非合法移民対策が物議を醸している。

彼は、アメリカ・メキシコ国境全域に壁を建設することだけでなく、アメリカ生まれの子どもにアメリカ国籍を与える法律(憲法修正第14条)を無効にすることも訴えている。さらに、幼少期に非合法移民の親とともにアメリカに来た若者たち(通称ドリーマーズ)は一時滞在が許されているが、そうした許可も無効にすると発言している。

共和党支持者の中でも特に保守的傾向が強い層は、移民の流入で変わりゆくアメリカ社会に不満や不安を抱いており、排外主義的な主張を躊躇なく繰り返すトランプはそうした不満の受け皿になっている。

トランプは厳しい国境管理による非合法移民の排除という国民国家の原則論に訴えることで正当性を得ようとしているものの、移民によって築かれたアメリカ社会の現実を完全に無視している。

さらに、トランプが第14条を批判して話題になると、世論調査で後れを取る他の共和党候補者らも第14条について似たようなことを言いだした。19世紀の共和党が奴隷制を廃止して生み出した第14条を、21世紀の共和党が移民問題を理由に潰そうとしている。

社会学者のサスキア・サッセンやジャーナリストのフアン・ゴンサレスが指摘するように、多くの非合法移民を含むラティーノ移民は、ラテンアメリカに対するアメリカの軍事的・経済的介入の結果であり、そうした移民が今日もアメリカ経済を支えていることは否定できない。

ロサンゼルスの地元テレビ局KTLAの記事によると、こうしたトランプの発言に対して、移民支援団体の代表は「彼の極端な考え方には言葉を失いますし、危険な方向に向かっています」「トランプ氏の計画はアメリカに暮らす1,100万人の勤勉な移民たちを捕まえて強制送還することができる警察国家を生み出すことになるでしょう」としたうえで、「幸いにも、そうした考え方は一般的に受け入れられておらず、機能もしないので人気もありません。ですから、実際には実施されないでしょう」と述べている。

その言動が共和党内からも多くの批判を浴びているトランプ氏が大統領に当選する可能性は低いだろう。しかし、排外主義的な主張を繰り返すトランプは、ニュース番組だけでなく芸能番組にも連日取り上げられており、このまま共和党の予備選を勝ち抜く可能性はある。そうすれば、曲りなりにも箔が付く。

「私は本当に金持ちだ」と豪語する資産13億ドルのトランプにとっては、世間の話題の中心となり、何らかの形でアメリカ政治に自分の名前を残すだけでも、2016年の大統領選はいい投資なのかもしれない。しかし、彼の人気は排外主義に支えられている。メキシコ人を中心とするラティーノ移民にとってはたまったものではない。

・トランプに関する記事は、こちらこちら、またこちら
・KTLAの記事は、こちら


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