2015年のアカデミー賞は男女ともに主演・助演賞に選ばれた役者が白人であったことが話題となった。ハフィントンポストは「This Will Be The Whitest Oscars Since 1998 (1998年以降、最も白いアカデミー賞になる)」という見出しで報じていた。
そんな中、メキシコ人のアレハンドロ・イニャリトゥが監督賞を受賞した。
プレゼンターの俳優から「誰がこんな野郎にグリーンカード(永住権)を与えたんだ?」と悪い冗談で紹介されたものの、イニャリトゥはメキシコ人移民が「この素晴らしい移民の国を作り上げたかつての移民たちと同じ尊厳と敬意をもって扱われることを祈る」とうまく切り返したことも話題となった。
さらに助演女優賞を受賞したパトリシア・アークエットが受賞スピーチで女性の権利向上を訴えたことも注目された。
アカデミー賞は僕の大学の授業でも少し話題になった。ラティーノ/チカーノ研究の授業では「メキシコ人もアメリカ映画を撮影しないと監督賞はもらえない」、「今回のアカデミー賞はアメリカ、イギリス、オーストラリアなどの白人性を中心としたつながりをよく示していた」と批判的に観察する声が目立った。
人種とジェンダーの授業では、アークエットが受賞スピーチで「私たち(女性)は他の人の権利のために戦ってきた。次はアメリカの女性のための平等と権利のために戦う番です」と訴えたのは、LGBT(性的少数者)や黒人の権利が満たされているという誤った前提に基づいていると、先生が指摘していた。
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ハリウッド映画の制作・出演陣は白人男性中心で、その多様性の乏しさが批判の対象となっている。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のアフリカ系アメリカ人研究所によると、エスニック・マイノリティはアメリカの人口の40%近くを占めるが、2013年の映画主演者における割合は17%。女性は人口の半分以上だけど、映画主演者における割合は25%で、監督における割合はわずか6%という。さらに、ハリウッド映画産業の経営人に至っては、94%が白人で100%が男性という。
出演者の多様性を高めたほうが収益が高いと考えられているにも関わらず、白人男性中心の状況が変わらないことについて、同研究所は「(映画産業の方向性について決定権を持つ白人男性は)自分たちの仕事をキープしたい。成功もしたい。そして成功のためには自分たちの周りを基本的に白人男性で固めていったほうがいいと感じている」と指摘している。
今年のアカデミー賞の受賞候補者の構成はそうした白人(男性)を中心としたアメリカ映画産業の現状を色濃く出したものであり、マイノリティが多く暮らすアメリカ移民社会の実情とかなり異なっていたといえるだろう。
一方、同研究所はテレビ産業では変化が生まれ、多様性が高まりつつあると指摘している。僕はテレビをかなり見るほうだけど、確かにラティーナの若い女性やアジア系家族を主役に据えたテレビドラマが出てきている。
同研究所は、膨大な費用がかかる映画よりもテレビの方が新しい企画を実行しやすいことにくわえ、ツイッターなどのソーシャル・メディアの情報がテレビ局の判断に大きな影響を与えていると分析している。
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インターネットによって、映画やテレビといった既存メディアとは異なるメディア空間が急速に拡大している。
ユーチューブは、もっともアメリカ移民社会の状況を反映している映像メディアといえるんじゃないだろうか。
たとえば、アジア系は映画やテレビ産業で最も存在感がうすい。しかし、ユーチューブを開くと、アジア系の若者たちが制作また出演したチャンネルがいくつもあり、アジア系の視聴者を中心に人気を博している。
最も人気の高いアジア系チャンネルの一つ「Wong Fu Productions」は、カリフォルニア大学サンディエゴ校のアジア系学生3人が2003年に立ち上げた映像制作チーム。ユーチューブを中心にショートドラマなどの制作・出演を続け、現在、230万人以上がチャンネル登録して彼らの番組を楽しんでいる。3年前に制作された「Kung Fooled」という動画はアジア系男性へのステレオタイプを逆手にとったコメディで1,100万ビューを超えている。
その人気はアジア各国にも広がっており、最近は日本のファンとふれあう機会もあったようだ。
ほかにも「FungBrosComedy」はアジア系文化やステレオタイプについて若者の視点から面白おかしく紹介。「LeendaDProductions」はアジア系女性の立場から日常的なあるある話などを短いドラマやコントにして放送している。アナ・アカナ(Anna Akana)は、人種やエスニシティに関わらず、女性が日々感じていることなどを中心に短い番組を制作し、人気を集めている。彼らは動画に広告を加えたり、スポンサー企業の商品を宣伝したりして収入を得ている。
これらの動画は単純に面白いものが多い。それにくわえて、視聴者のコメントがずらーっと並んでいるので、アジア系の若者がどのようにアメリカ社会や自分たちのことについて感じているのが知るうえで参考にもなる。
これらのチャンネルの出演者は、それぞれの番組に出演しあうことで、ある程度のタレントを揃えた芸能空間を生み出し、ファンと視聴数を増やしている。こうした相互出演はユーチューブでは一般的に行われている。
もちろんこれらのアジア系チャンネルでは、出演者も視聴者もアジア系が中心なので、それぞれのチャンネル自体の多様性が高いわけではない。ただ、ユーチューブではハリウッド映画などで活躍の場を与えられていないマイノリティや女性が活路を見出しており、全体として最も多様性の高いメディアに成長しているんじゃないだろうか。
・同研究所の調査を報じた公共ラジオ局NPRの記事は、
こちら。
・Wong Fu Productionsのユーチューブチャンネルは、
こちら。
・イニャリトゥのスピーチについては、
こちら。