カリフォルニア州には、合法的な書類を持たずに入国または滞在している非合法移民が約280万人いると推定されている。彼らの多くが仕事や生活で、自動車を必要としているが、これまで非合法移民による運転免許の取得は認められてこなかった。
この法律の狙いは、非合法移民の免許取得を認めることで、彼らの交通ルールに対する理解や自動車保険の加入を促し、重大な交通事故を未然に防ぐことだ。無保険者による交通事故を減らすことにもつながる。これまで激しい議論が重ねられてきた、この法案が成立した背景には、低賃金労働者として地域経済を支えている非合法移民に対する理解の深まりがある。
ロサンゼルス・タイムズのネット記事を読んだり、リンクしてあった地元テレビ局KTLAのニュース動画も見たりすると、この種の法律が抱える問題も指摘されているが、それ以上に非合法移民に対する理解の深まりが伝わってくる。
昨日の午前、ロサンゼルス市役所の前には、ロサンゼルス市のエリック・ガーセッティ市長、ホセ・ゴメス大司教ら移民の権利拡大に尽力してきた有力者にくわえ、移民支援団体関係者や非合法移民が集まり、ブラウン知事による法案の署名を見守った。
ブラウン知事は「もはや非合法移民が社会の陰に隠れて暮らすことはない。彼らはカリフォルニア州内でしっかりと生活し、尊重される」とスピーチで述べた。
テレビレポーターが、市役所前に集まった人々にインタビューする。セルヒオ・ロペスという名前の男性は「Oh my god! I'm so really really happy. I feel so blessed today(オーマイゴッド。本当に本当にうれしいです。今日、本当にありがたいと感じています)」と英語で応えている。
テレビ画像に下の方には、字幕で「undocumented immigrant(非合法移民)」と男性の肩書が紹介されている。非合法移民は、国境管理の観点では強制送還の対象だ。だけど、このテレビニュースでは、男性の顔と名前が丸出しになっている。
子どもの頃に親に連れられて不法入国した非合法移民の若者が、顔と名前を自ら公表して、彼らの合法化を求めて活動している様子は、テレビで何度も見たことがある。だけど、自分の判断でアメリカに入国した非合法移民の大人の顔と名前を、ここまであからさまに報道しているニュースを見るのは初めてだった。
アメリカの非合法移民は、日本では「不法移民」と報じられている。「不法移民」と聞くと、強制送還の対象という印象が強い。しかし、日本語の「不法移民」という言葉では、カリフォルニア移民社会の非合法移民に対する認識は理解しにくい。少なくとも、この日、市役所前に集まった人たちにとって、非合法移民とは合法的な書類を持たない「社会の一員」という認識の方が強いんじゃないだろうか。
テレビ局も、この男性の顔と名前を公表しても、彼が不法滞在以外の犯罪を犯さない限り、当局が彼を強制送還することはない、という自信があり、この男性自身も自分を支えてくれる人たちがたくさんいることを知っている。そういった非合法移民をめぐる社会的な認識が、こうした報道自体を可能にしているように思う。
ロサンゼルス・タイムズのネット記事に寄せられたコメントが示すように、カリフォルニア州内においても、非合法移民に対する批判は根強い。それ以上に、知事や市長が非合法移民の社会的貢献を認め(ラティーノ有権者の票が視野に入っていたとしても)、地元テレビ局が非合法移民を「陰」に隠さず、顔と名前を公表して、彼らの声を報じている事実は力強い。
・この法案署名に関するロサンゼルス・タイムズの記事は、こちら。
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