2013年10月20日日曜日

日本と韓国とアメリカ、ガーデナ市の焼肉店で

「Lady Generation 海よりたくましく 未来を生き抜く為には♪」

ある週末、ガーデナ市にある日本の有名百円均一ショップで流れていた曲は、篠原涼子の「Lady Generation」(1995年)だった。ロサンゼルスで暮らし始めてから、日本語はいつも妻と話しているけど、日本のポップミュージックを聞く機会はほとんどない。そんな日々の中で、とつぜん1990年代のヒット曲を聴くと、とても懐かしい。ガーデナ市には、日系人が多く暮らしており、日系食料品店や日本料理店もたくさんある。市長も日系人だ。

先月、ある歴史学関係のイベントで、ガーデナ市に住む日系人の年配の女性と知り合った。いろいろと日系人の歴史について教えてくれた。アメリカで生まれ育った日系二世の女性で、流ちょうな日本語を話す。日本に一時帰国した妻が和菓子を買って帰ってくれたので、先週、その女性にお土産として渡しに行った。不在だったので、手紙を添えて、女性の家のドアノブに和菓子の入った紙袋をぶら下げておいた。


その後、近くにある焼肉店に妻と向かった。同市内に住む韓国出身の知り合いのおばさんが食事に誘ってくれた。おばさんが大家をしている下宿で、僕の日本の大学院の先輩が今年6月まで1年間、暮らしていた。その縁で、先輩の帰国後もよくしてくれる。ありがたい。おばさんは日本にも1990年代中頃まで20年近く暮らしていたので、日本語も話せる。

ガーデナ市では、1980年代以降、韓国人移民も増えており、韓国料理店も多い。
この前から、気になっていた焼肉店「고향갈비(故郷カルビ)」に連れて行ってくれた。
最近、下宿を始めた日本人の18歳の青年も一緒に来た。

庶民的な店内にはテーブルが20台ほどある。平日の午後5時だけど、たくさんの客がいる。韓国系だけでなく、アフリカ系やラティーノの客も多い。

僕らが席につくと、おばさんが「A세트 개 주세요 (Aセット、四つください)」と注文してくれた。Aセットは薄くスライスした牛肉、鶏肉、豚肉の食べ放題セット。それに、スライス状のモチやサラダも付いてくる。値段を見ると一人10ドル弱だった。焼き肉にサラダとスライスモチを包み、焼肉用の韓国味噌を少しつけて食べると抜群においしい。この店の人気の理由が分かった。

食事中、韓国と日本とアメリカの3ヶ国で暮らしてきたおばさんが、それぞれの国の文化や経済の違いについて、自身の経験から話してくれた。ガーデナ市や南隣のトーランス市には、日本人や韓国人が多く暮らしており、おばさんにとって暮らしやすい環境が整っているらしい。今後もアメリカで暮らし続けていく予定のおばさん。「民主主義と平等。これがいちばん大事」と話していた。

しばらくすると僕の携帯電話が鳴った。「ハロー」と出ると、日本語が返ってきた。日系人の女性が、お土産のお礼に電話をかけてくれた。


カリフォルニア州と一口に言っても、地域間の特色の違いは大きい。ガーデナ市の場合、100年以上前に暮らし始めた日本人の子孫や、30年ほど前から増え始めた韓国人移民、またその他のマイノリティの影響が絡まりあって、今日の地域社会ができあがっている。

2010年の国勢調査によると、市内人口約5万9千人の主な人種構成は、アジア系が26.2%、白人が24.6%、アフリカ系が24.4%、その他の人種(some other race, SOR)が18.9%となっている。

アメリカの国勢調査では、人種カテゴリーに関する質問とは別に、ヒスパニック・ラティーノかどうか問う項目もある。
ガーデナ市のヒスパニック・ラティーノ人口は、10年前の調査時に比べて2割増えて、市内人口の37.6%となっている。彼らの多くは、自分たちの人種カテゴリーとして「白人」または「SOR」を選ぶ。

これらを考慮すると、ガーデナ市は、アジア系、アフリカ系、ラティーノの人々が万遍なく暮らしているといえる。ちょうど焼肉店の客層と一致する。焼肉店では、韓国味噌の入った小皿の他に、赤いソースの入った小皿があった。味見すると、トルティージャチップ用サルサの味がして、なんだこれは、と思っていたけど、ラティーノが多い客層に合わせて提供していたのかもしれない。次回、その焼肉店に行ったら、店員に質問してみよう。

2013年10月5日土曜日

非合法移民に運転免許、社会の一員として

昨日、カリフォルニア州のジェリー・ブラウン知事が、非合法移民の自動車運転免許証取得を可能にする法案に署名した。

カリフォルニア州には、合法的な書類を持たずに入国または滞在している非合法移民が約280万人いると推定されている。彼らの多くが仕事や生活で、自動車を必要としているが、これまで非合法移民による運転免許の取得は認められてこなかった。

この法律の狙いは、非合法移民の免許取得を認めることで、彼らの交通ルールに対する理解や自動車保険の加入を促し、重大な交通事故を未然に防ぐことだ。無保険者による交通事故を減らすことにもつながる。これまで激しい議論が重ねられてきた、この法案が成立した背景には、低賃金労働者として地域経済を支えている非合法移民に対する理解の深まりがある。

ロサンゼルス・タイムズのネット記事を読んだり、リンクしてあった地元テレビ局KTLAのニュース動画も見たりすると、この種の法律が抱える問題も指摘されているが、それ以上に非合法移民に対する理解の深まりが伝わってくる。

昨日の午前、ロサンゼルス市役所の前には、ロサンゼルス市のエリック・ガーセッティ市長、ホセ・ゴメス大司教ら移民の権利拡大に尽力してきた有力者にくわえ、移民支援団体関係者や非合法移民が集まり、ブラウン知事による法案の署名を見守った。

ブラウン知事は「もはや非合法移民が社会の陰に隠れて暮らすことはない。彼らはカリフォルニア州内でしっかりと生活し、尊重される」とスピーチで述べた。

テレビレポーターが、市役所前に集まった人々にインタビューする。セルヒオ・ロペスという名前の男性は「Oh my god! I'm so really really happy. I feel so blessed today(オーマイゴッド。本当に本当にうれしいです。今日、本当にありがたいと感じています)」と英語で応えている。

テレビ画像に下の方には、字幕で「undocumented immigrant(非合法移民)」と男性の肩書が紹介されている。非合法移民は、国境管理の観点では強制送還の対象だ。だけど、このテレビニュースでは、男性の顔と名前が丸出しになっている。

子どもの頃に親に連れられて不法入国した非合法移民の若者が、顔と名前を自ら公表して、彼らの合法化を求めて活動している様子は、テレビで何度も見たことがある。だけど、自分の判断でアメリカに入国した非合法移民の大人の顔と名前を、ここまであからさまに報道しているニュースを見るのは初めてだった。

アメリカの非合法移民は、日本では「不法移民」と報じられている。「不法移民」と聞くと、強制送還の対象という印象が強い。しかし、日本語の「不法移民」という言葉では、カリフォルニア移民社会の非合法移民に対する認識は理解しにくい。少なくとも、この日、市役所前に集まった人たちにとって、非合法移民とは合法的な書類を持たない「社会の一員」という認識の方が強いんじゃないだろうか。

テレビ局も、この男性の顔と名前を公表しても、彼が不法滞在以外の犯罪を犯さない限り、当局が彼を強制送還することはない、という自信があり、この男性自身も自分を支えてくれる人たちがたくさんいることを知っている。そういった非合法移民をめぐる社会的な認識が、こうした報道自体を可能にしているように思う。

ロサンゼルス・タイムズのネット記事に寄せられたコメントが示すように、カリフォルニア州内においても、非合法移民に対する批判は根強い。それ以上に、知事や市長が非合法移民の社会的貢献を認め(ラティーノ有権者の票が視野に入っていたとしても)、地元テレビ局が非合法移民を「陰」に隠さず、顔と名前を公表して、彼らの声を報じている事実は力強い。

・この法案署名に関するロサンゼルス・タイムズの記事は、こちら