アメリカはハンバーガーだけでなく、ドーナツの国でもある。どこでもドーナツ店がある。チェーン店もあれば個人商店もある。僕の行きつけのドーナツ店はちっちゃな個人商店。ロサンゼルスでは一般的な小さい平屋のショッピングセンターに入っている。東南アジア出身の40歳代くらいの女性が切り盛りしている。
僕はいつもドーナツとコーヒーをそれぞれ一つずつ注文する。それで2ドルくらい。これでどうやって経営しているんだと思うけど、この店に長時間いると、たくさん客が来ることが分かる。そして、ドーナツを食べるよりも宝くじを買いに来る客のほうが多いことも分かる。
ある日の午後6時は僕を含めて店内には11人の客。僕のテーブルの左手には40分ほどスクラッチ宝くじを削り続ける60歳くらいの大きな白人女性。右手にはメキシコ系の若い女性2人がドーナツを食べている。
別のメキシコ系の女性が5歳くらいの娘と店に入る。その母親の女性は宝くじを買いに来たけど、娘は別のものが欲しくて仕方ないらしい。それはアメリカ版ガチャガチャのおもちゃ。
英語ではカプセルトーイ(capsule toy)と呼ぶらしい。店内には「ファーストフード消しゴム」のガチャガチャ機があった。一つ25セントと日本のガチャガチャに比べると安い。ガチャガチャ機はちょうど子どもの目線に合わせて商品が見えるように設計されている。
ドーナツ店のガチャガチャ機 |
女の子は母親からもらった25セントコインを機械に入れ、つまみをひねった。コカ・コーラ狙いだったが、出てきたのはシェイク消しゴム。母親に再びおねだり。ガチャガチャ機の前で目をつぶり、両手の人差し指と中指を交差させてコカ・コーラが出てくることを祈る。指を交差させるのは何か幸運を祈るときのジェスチャーだ。
しかし、結果は「Oh my God! It's an ice cream!!」と出てきたのはアイスクリーム消しゴム。コカ・コーラが手に入るまでは止められないと彼女は宝くじを購入中の母親に「Mammy, please quiero otro coin!(お母さん、コインもう一枚ちょうだい!)」とすがる。
ちょうど5歳くらいだと幼稚園児か卒園したかくらいの年齢だ。幼稚園に入るまでは家庭でスペイン語しか話さなくても、幼稚園に入ると英語をどんどん吸収する。その結果、おそらく彼女も「Mammy(英語とスペイン語), please (英語) quiero (スペイン語)otro (スペイン語)coin (英語)!」と英語とスペイン語が混ざった状態になっているんじゃないだろうか。母親は娘にはスペイン語で話していた。
ねだり倒して最後のコインをゲット。ガチャガチャ機に投入し、目を閉じて指を交差する。小さい体で大きく深呼吸。カプセルを開けると、残念ながらオレンジ消しゴムだった。けど、結果的に3個も買ってもらったので満足そうだった。しばらくして母親と店を去った。母親も特に興奮していなかったから、きっと宝くじも当たらなかったんだろう。
ドーナツ店は甘い菓子だけでなく、一攫千金の甘い夢も売る。幸運を祈る大人のとなりで、子どももそれなりに幸運を祈りガチャガチャする。なんの特徴もないドーナツ店も長時間いるとロサンゼルス移民社会の生活がいろいろ見れておもしろい。
その日ではないけど、僕も同じガチャガチャ機に挑戦した。ドーナツ消しゴムが出てきた。ドーナツ店の土産にちょうどいい。今度はコカ・コーラを狙おう。
ファーストフード消しゴムは指2本分くらいの小ささ。カプセル(写真後)に入って出てくる。 |