その食料品店は、お手頃価格のインド料理も人気。店長らしきインド人のおじさんが初めて来たという客に「ここで20年以上、商売してるんだよ」と自慢げに話していた。
僕らは屋外の座席でチャイ(1ドル)を飲みながら、それぞれ読書した。
この店はインド人だけでなく、白人やアフリカ系、僕らアジア系を含めて、いろんな客が来る。
この日はインドの民族衣装サリーを着ている非インド系の女性がやたら多かった。
軽く2時間ほど読書した後、日が暮れる前に帰ろうと席を立った。
帰り際、ある建物の前に人が集まっていた。インド人と思われる人が大半だけど、それ以外の人種・エスニシティの人たちもいる。スペイン語も聞こえてきた。
来場者は靴置き(写真右)や入り口付近で靴を脱ぎ、裸足で会場に入っていった。 |
建物に近づいてみると、にぎやかな音楽と歌声が建物内の会場から聞こえてきた。
誰でも中に入って良さそうな雰囲気だったので、靴を脱いでから会場に足を踏み入れた。
太鼓やシンバルの音が響き渡る会場を100人近い人々が埋め、音楽に合わせて飛び跳ねたり、両手で空を仰ぐようなしぐさをしたりしている。サリーを来た白人女性もたくさんいた。会場前方の舞台では、宗教指導者のような人たち数人が儀式を取り行っていた。
会場内は人々の熱気とお香の香りで独特の雰囲気に。 |
大音量でノリノリの会場を興味深く眺めていると、インド人らしきおじさんが耳元で声をかけてくれた。
「もっと前の方に行ってもいいよ」
「ありがとうございます。みなさん何を祝っているんですか」
「今日はグルの誕生日です。グルはここの創設者です」
おじさんの案内で、盛り上がっている人々を避けながら、会場前方に向かうと、等身大のグルの座像が置かれていた。
グルとは、サンスクリット語で、導師や教師などの意味がある。英語でも、なんらかの分野の権威的指導者のことを指す言葉として使われている。
しばらくして音楽が終わると、参加者らはそっと座像に触れてから会場の外に出ていった。ここは、この人たちにとっての寺院らしい。儀式の後は、無料で食事が提供されるのか、紙皿を持った人たちが別の建物の前に100メートル以上の列をなしていた。
◇
建物の外で、この教団に関係する本やDVDを売っているコーナーがあった。そのコーナーの若い男性に「ヒンドゥー教の寺ですか」と聞くと、「宗教というよりも、哲学です。いろんな人たちがいるでしょ」と答えくれた。
この教団は、グルであるインド人宗教家スワミ・プラブパーダ(1896~1977)が1966年にアメリカで創設したクリシュナ意識国際教団(International Society for Krishna Consciousness)という有名な団体らしい。最高神は、インド神話の英雄で、ヒンドゥー教の神の化身であるクリシュナ。世界に500ヶ所以上の拠点があり、ビートルズのジョージ・ハリソンも信者の一人だったという。この日の会場には1960年代後半のヒッピーのような白人も多かった。
その拠点の一つがたまたま近所にあったようだ。帰宅後に調べると、今日はグルの誕生日ではなく、この教団にとって重要なインドの聖人の528回目の誕生日だったらしい。大音量でおじさんの言葉を聞き間違えたのかもしれない。
いずれにせよ、インド神話と関わりの深い信仰がアメリカ大陸で根付き、人種や文化の違いを超えて受け入れられている状況は、信仰と移民の関係を考えるうえで興味深い。