タコスとハンバーガーだけでは、どうしても胃の落ち着きがわるいので、旅行先では中華料理がありがたい。味付けはアメリカ風だが、焼き飯、焼きそば、一品の3.28ドルセットで、おなかいっぱいになれる。
店を仕切るのは、上海出身の中国人夫妻。客席では、小学生の息子がおもちゃで遊んでいる。アフリカ系やラティーノ、アジア系の客がぼちぼち入ってくる。
夫妻は、子どもと中国語で話し、客に英語で対応する。ロサンゼルスでは珍しくないエスニック料理店の姿だ。
この店は中に入ると、南側の壁が一部取り払われており、隣のメキシコ料理店「TACO DON CARLOS(カルロスさんのタコス)」と内側でつながっていた。まあ、そういう設計もあるだろうし、どっちの料理も食べられるのでわるくはない。
すると、中華料理店のお父さんが隣の店に入っていった。メキシコ料理店の店員とちょっと話でもするのかな、と眺めていると、そのまま注文カウンターの内側に入って、ラティーノが中心の客に対してスペイン語で接客を始めた。
「Para aqui?(店内で食べますか)」と発音もなかなかいい。
つまり、ここは中華料理とメキシコ料理の別々の店ではなく、同じ中国人が経営する一つの店だったわけだ。お父さんによると、彼らはここで20年商売をしているらしい。メキシコ料理もスペイン語もここで生活するなかで覚えていったという。
中華料理店「PANDA KING」(左)とメキシコ料理店「TACO DON CARLOS」(右)は同じ中国人が経営している=ロサンゼルス・ダウンタウン、4日撮影 |
近くのグランド・セントラル市場のペルシャ料理店のおばさんも、店内ではペルシャ語を話しつつ、ラティーノの客に対してはスペイン語で接客していた。友人の話では、韓国系住民が多く暮らすコリアタウンでは、韓国系の客が多いため、韓国系食料品で働くラティーノがハングルを覚えてしまうという。
ここロサンゼルスでは、消費者の多くがスペイン語が母語としている。局地的にコリアタウンではハングルが母語の人も多い。そうして消費者が求める新たなサービスが生まれ、それがこの町の多言語化(スペイン語化、ハングル化)をさらに促進しているようだ。
その国や地域の人々がどのような言語を話すのか。上からの政策と下からの日常にもまれて、単一の言語が普及したり、多言語化が進んだりしていく。